隼人阿多の君の祖となるウミサチを、ヤマサチが屈服させるこの物語は、天皇家がこの国の中心となって地方の豪族たちを傘下に置いていく過程を表している。ヤマサチの別名の「天津日高日子穂穂出見命」は天つ国の正当な後継ぎであり日子、つまり日の神の性格を持つこと、穂穂手は「稲穂が出る」の意味であり「見」は神霊の尊称。父であるニニギも同様に稲穂の実りの意味を持っている。
ヤマサチは天皇の祖となる特別な存在なので、海の民の住む「異郷」へと旅立つことも必然であり、シオツチや海の神もこの将来性のある若者に力を注ぐ。異郷の娘やその侍女が見ほれるばかりの麗しさを持ち合わせ、異郷の者と結婚することもまたヒトが持ち合わせない霊力を得るために必要なプロセスだ。こうして人知を超えたスーパーヒーローができあがり、他の者が取って代わることのできない確固たる位置に君臨することになる。 |