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天照大御神 ににぎのみこと 木花佐久夜姫 山幸彦 海幸彦 豊玉姫 神武天皇
麗(かおよ)き美人(おとめ)

 降臨した天孫・迩迩芸命(ニニギノミコト)が一目ぼれしたのが木花佐久夜姫(コノハナサクヤヒメ)。海幸彦と山幸彦の母としても良く知られている。
 古事記によれば、「筑紫(ちくし)の日向(ひむか)の高千穂のくじふる峰(たけ)」に天下ったニニギが吾多(あた)の笠沙の岬で麗(かおよ)き美人(おとめ)と出会う。聞けば、大山津見神(オオヤマツミノカミ)の娘・カムアタツヒメ、またの名をコノハナサクヤヒメだと言う。ニニギはその場で結婚を申し込み、天つ神と国つ神の初めての婚姻となった。

美とはかなさの象徴

 ニニギからの結婚の申し込みに大層喜んだ父・オオヤマツミは姉の石長姫(イワナガヒメ)もコノハナと一緒に、ニニギと結婚させようとした。コノハナは桜の女神で美とはかなさの象徴、それに対して名前の通り雪が降っても風が吹いても変わらない岩のような永遠性を象徴するイワナガを副えることで、天つ神の子孫が永遠に木の花のように栄えることを願ってのことだった。ところがイワナガが醜かったため、ニニギは一目見るなり送り返してしまいコノハナだけを泊めて一夜の交わりをした。この結果、天つ神の子孫でありながら天皇(すめらみこと)たちの寿命は、以来、木の花のように短くはかないものになってしまったという。

コノハナサクヤヒメ
米づくりが上手だったイワナガヒメ

 いのちが石のように長く続き花のように栄えることはだれしも願うことではあるが、現実にはあり得ないこと。それはたとえ天皇といえども同様で、人には寿命があるということを語るために見た目が美しいか醜いかを引き合いに出されるなんてひどい話だが、イワナガはその後どうしたのか、幸い古事記にはない話が宮崎市の隣の西都市に伝わっている。
 帰されたイワナガが「自分の身を見たくない」と、鏡を遠くに放り投げたところ、東米良の龍房(りゅうふさ)山の上に引っかかってしまう。鏡が朝な夕な照らしたため麓(ふもと)が白く見えるので、村の者が山に行ってみると大きな銀の鏡があった。これを持ち帰ってお祀りしているのが西都市の銀(しろ)鏡(み)神社。「しろみ」という呼び名も「白く見えた」ということから付けられた。
 米良の山に籠って人と行き来しなかったイワナガだったが、それでも生きていかなくちゃいけないので、山の中に田んぼを拓く。その田んぼでは大変おいしいお米が採れたので「良い米」、ここからこの地方が米良という地名になったと言われている。

燃え盛る火の中で出産

 さてニニギと結ばれたコノハナのほうは一夜の契りで妊娠するが、ニニギは「一夜で妊娠するはずがない。私の子ではなく国つ神の子に違いない」といって疑った。「お腹の中にいる子どもがあなたの言うように国つ神の子どもであるなら、無事に産まれてくることはないでしょう」。コノハナはそう言って、出入口を全て塞いだ産屋に入りそこに火を放った。火が勢いよく燃え盛っている時に生まれたのが火照命(ほでりのみこと)(海幸彦)、次に産まれたのが火須勢理命(ほすせりのみこと・火が衰えるの意)、最後に火遠理命(ほおりのみこと・火が静まるの意)(山幸彦)と、無事3人を産み終えニニギの疑いも晴れた。
 浮気していないことを証明するために火を点けた産屋で出産するなんてなんと気丈なヒメだろうと思うが、これは天つ神の系統が地上へと継承されたことを、コノハナが誓約の形をとって証明してみせたということだ。


安産、火山鎮火、農耕神的一面も

 コノハナは困難な状況にありながら無事に出産したことから安産の神として信仰されている。また、古事記で名のる本名の「神阿多津比売(カムアタツヒメ)」の「阿多」は宮崎県や鹿児島県にある地名であることから出自は南九州だが、実は富士山の神でもある。火中出産神話によってコノハナは火の神でありまた火の難を避けることができたため、火山鎮火の神とされ噴火を繰り返していた富士山が、コノハナを祀ることで鎮火したという。コノハナの産んだ子の一人に火を制御する水神の性格を持つ海幸彦がいることも関係しているのかもしれない。山の神である父・オオヤマツミから富士山を譲られ、東日本一帯を守護するようになったという話も伝わっている。
 燃える火の中で新しい命が生まれるという火中出産の話は、稲積を焼き新しい穀霊が誕生するという収穫儀礼や焼畑農耕との関わりが背景にあるとも考えられる。コノハナの農耕神的な一面である。

木花はコノハナの伝説の地

 出産のときの産室は戸をすべてふさいでしまったことから無戸室(うつむろ)と呼ばれその跡とされるものが宮崎市木花の木花神社の近くにある。木花神社のご祭神はニニギノミコトとコノハナサクヤヒメであり、ニニギの行宮(あんぐう・天皇の行幸などのときに一時的に設けた仮宮)の跡と伝わっている。境内(けいだい)には出産の際に産湯(うぶゆ)に汲んだ泉とされる桜川が湧いている。木花神社は、山幸彦が訪ねた海の宮があったという青島の近くにある。青島や加江田渓谷(かえだけいこく)、鰐塚山(わにつかやま)はウミサチ・ヤマサチ兄弟の遊び場だったのかもしれない。

都萬神社

 西都市の都萬神社もコノハナを祀っている。都萬神社は日向国(ひゅうがのくに・今の宮崎県)では都農神社に次ぐ二宮(にのみや)で、コノハナとニニギが新婚生活を送ったとされる地と建っている。コノハナはお乳替わりに甘酒を作って子育てをしたと言われており、境内には「日本酒発祥の碑」がある。安産並びに縁結びの神として人気があり、市内には国内有数の規模を持つ西都原古墳群がある。


あいそめ川

 
 
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